― 解説 ―
この物語は有名な「道成寺伝説」の安珍清姫から題材をとっています。
紀州の熊野権現参詣の為に訪れた僧侶安珍が真砂庄司の家に一夜 の宿を借りる。
夜半すぎ寝所にしのんできたその娘清姫に、ついに戯れに妻にすることを約束してしまう。
参詣の帰りを一日千秋の想いで待つ清姫の気持ちとは裏腹に、安珍は軽はずみな約束を悔い、清姫を避けて他国へ去ろうとする。
これを知った清姫は嘆き、怒り、安珍を追って蛇体に変化し日高川を泳ぎ渡り、道成寺の鐘の中に逃げ込んだ安珍を焼き殺し自らも入江に蛇体の身を投げて死んでしまう。
まさに、すざまじい女の執念と哀れさを漂わせた物語です。
《清姫曼陀羅》はその物語を基本にした上で、清姫の持つ女の執念の激しさ、そして恋する男を焼き殺し、また自らも死んでいった女の業の哀れさを、妖しいまでに美しい舞踊劇として仕立ててみました。
あわせて安珍という男をからめた男と女のエロティックな情念世界にもスポットをあてています。
無言劇ですので、難解と思われる部分も多少あろうかと思いますが、あえて道成寺からの物語からはなれ、話の筋をおうことより舞踊として、流れと場面の中で様々に感じとっていただければと思います。
岡本芳一